卓話


新時代の礼儀作法〜マナーは世界を救う〜

2023年3月29日(水)

マナーコンサルタント 西出 ひろ子氏


 マナーは、日本語に訳すと礼儀です。
 先日、野球の世界一決定戦、ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で日本が優勝し、その中で世界中のメディアが日本選手の礼儀の良さやお辞儀の美しさを称賛しました。特に大谷翔平選手の韓国戦の時の帽子の脱ぎ方が話題になりました。右手でツバを持って一瞬静止し、後頭部に向かって上げて一瞬静止、そこから上へ持っていき、大きく弧を描くように前に持ってきてから、さらに左手を添え、頭のてっぺんから腰を真っ直ぐにして前傾のお辞儀をしました。

 ここでのポイントは、一瞬静止した「間」です。所作は、“ながら”ではなく、メリハリをつけると美しいと見る側が感じます。

 例えば、日常の挨拶でも、「こんにちは」とお辞儀をしながら言うのと、「こんにちは」と言ってから動作に移す「分離礼」、別名「先言後礼(せんげんごれい)」、「語先後礼(ごせんごれい)」という、言葉を先に言って一瞬の間を置いてお辞儀する動作で、見え方や感じ方が異なります。間は心を相手に向け、次の動作への準備時間となります。そこに相手は目には見えない心、気持ちを感じ取るため、それを美しいと感じるわけです。

 今回のWBCの世界一という結果は、「マナー人は、成功する」と私が30年間提唱し続けたことを証明して下さったと大変有り難く思っています。

 さて、日本ではマナーというとお辞儀の仕方などの型をおっしゃる方が多く、企業のマナー研修においても「とりあえず、電話応対の仕方や、名刺交換の仕方」の型を教えてほしいと言われます。

 しかし、本来のマナーとは型ではなく、相手に対する思いや心が最も大事だとお伝えしています。その理由は、「礼儀」の字をご覧になれば賛同いただけると思います。礼は思いやり、儀は型・形のことです。求められるマナーが型だとすると、礼よりも型が先にきて「儀礼」となります。儀礼と礼儀はイコールではありません。

 WBCの日本選手たちの美しいお辞儀や、ベンチを綺麗にしたことは、応援してくださる方々、対戦相手、審判や運営の方々、加えて球場やボール、バットなどの物といった「相手」に対する感謝の気持ち、心をお辞儀の仕方などの型で表現したものです。

 真のマナーとは、相手の立場に立ち、相手に迷惑をかけない、相手を不快にさせない、もっと言えば、相手に喜んでいただけるようにという相手への気持ち、心を行動や言葉で表現することです。これを私は「3つのこ」、「心のこ、言葉のこ、行動のこ」と言っています。

 WBCの日本選手たちは感謝の気持ちがあるから、「ありがとう」の言葉になりましたし、360度、観客の皆さんへ体を向け、目線を配り、深々とお辞儀をするスタイルになり、それを見た世界中の人たちが称賛しました。マナーの型は国よって異なりますが、マナーの心は、世界共通です。

 4月1日から、企業の新入社員研修がスタートします。新入社員の皆様に対しては、まずは学生意識から社会人意識への切り替えを行い、そして、なぜ、このような所作、対応を行うのか、ビジネスマナーの意義をしっかりと理解していただいた上で、お客さまや取引先、上司、先輩、同僚の立場に立つという想像力を養い、それを行動と言葉として表現するという真のマナーをお伝えします。

 仕事のできる人には、想像力と創造力があります。お客さまや自社、上司などの立場などを慮れる人材となるため、仕事におけるコミュニケーションがスムーズになり、離職率も減少します。そして、本来の目的である収益を上げるためのマナーが身につきます。企業の最終目的は社会貢献です。

 マナー教育は二の次、三の次に思われがちですが、収益をアップし、社会貢献をする人・企業であるためには、根底にマナー力のある人材が必須です。製品を研究開発して生み出すとき、エンドユーザーの立場に立って考えることこそがマナー力です。

 改めて自己紹介とマナーの定義を私が発信する理由についてお話しします。
 私はヒロコマナーグループ代表として、法人3社、その他、オンラインマナースクールや結婚塾、マナーショッピング、マナーサロンなどを運営しております。

 大妻女子大学文学部で、源氏物語の研究をしました。就職はマナー講師を目指すために航空会社を受けましたが、バブル絶頂期にもかかわらず、全滅。参議院議員、政治経済ジャーナリストの秘書を経て、マナー講師として独立し、1999年、31歳でオックスフォードへ単身渡英し、当時オックスフォード大学大学院の遺伝子研究者と起業しました。

 帰国後、企業でのコンサルティング、テレビなどのメディア800本以上、映画やドラマ、CMのマナー指導での日本実績NO.1、著書監修本100冊以上というありがたい実績を残すに至っております。

 私は、大分県別府市で初声を上げました。両親と弟の4人家族で、私が生まれた時、父は保険会社に勤務していましたが、私が3歳の時に独立し会社を経営していました。母は専業主婦で、自宅でも和服を着て、料理上手で日本の行事、しきたり、慣習、冠婚葬祭、全てにおいて型通りにきちんとする模範的な人でした。

 18歳、東京の大学に進学したその年に、両親の離婚騒動が始まりました。私は両親の仲をなんとか元に戻そうとしました。両親は自分の立場でしかものを言わず、相手を非難、攻撃するのを見聞きし、「人として、美しくないな」と思いました。

 そして、「人の美しさってなんだろう」と考えるようになりました。自分と全て同じ考え方の人なんてこの世には存在しない。自分と同じ人なんていないのだから、自分と考え方が異なる人に対して、「それは違う」と頭ごなしに言うのではなく、受け入れられないことは無理に受け入れなくてもいい。自分と異なる考えや意見の相手を否定したり攻撃したりするのではなく、受け止めてあげられることが人として美しいのではないかと思いました。

 その後、両親は離婚しました。離婚をするのはいいです。お互いがその後、幸せになるのであれば。ところが、私の実家の場合は、私が29歳の時に、父が自ら命を絶ちました。その後、6歳年下の弟も父と同様の亡くなり方をしました。母は今、どこにいるかわかりません。これが私の実家の家族です。

 私は、このような家族を今後増やしてはいけない。互いに相手の立場に立つ思いやりがあれば、このような悲劇は生まれない。マナーとは、見せかけの体裁を整える型のことではない。相手の立場に立てる思いやりの心のことで、それを身につけている人が、マナーある人だ。そして、これを「マナー」として伝える人になろうと決意しました。

 私がマナー講師になりたいと言った時、友人も母も全否定する中、唯一、父だけが「やりたいことをやりなさい」と言ってくれました。とても嬉しく、認めてもらえた、と思いました。

 父の突然の訃報を受け、約10年ぶりに育った家に帰った時、見たことのない女性が私を出迎えてくれました。「初めまして。10年間、社長のおそばにおりました」と。内縁の妻で、私と同じ歳でした。

 私は、冷たくなった父に「お父さん、ありがとう」と伝えました。私は幼い頃、当時の大分空港のそばに住んでおり、父と空港から飛び立つ飛行機を一緒に見ていた記憶があります。父の葬儀を終え、東京に向かう空港で、飛び立つ飛行機に向かって誓いました。「お父さん、私、日本一のマナー講師になるから」と。

 何のバックグラウンドも後ろ盾もない一匹狼で、トラブルのない家族、会社、社会、世界を目指して、私は心からのマナーを伝えています。

 人は学び進化し、磨かれていく。一人一人にマナーがあれば、平和な社会になると信じています。私の伝えるマナーの相手は、人だけではありません。動物、植物、鉱物、自然界の全てを相手とし、また、自分自身も自分を俯瞰する相手の一人です。これら全ての立場に立った時に、自分自身も大切にし、自然環境、動物愛護などの問題もマナー力で解決していけると考えます。

 “Manners maketh man.(マナーが人を作る)” これは、オックスフォード大学、ニューコレッジのモットーです。映画『キングスマン』の名言としても有名です。

 ジョージタウン大学マクドノー・スクール・オブ・ビジネス准教授クリスティーン・ポラスの『Think CIVILITY−「礼儀正しさ」こそ最強の生存戦略である』は、日本でも10万部以上のベストセラーになっています。このように、世界的にマナーがビジネスにおいても最強であると言われています。

 マナーはビジネスにおいても、人材の育成においても、根本、土台として最も重要なものです。心からの真のマナー研修は、それを熟知し、実体験でビジネスをしている講師でなければできません。ヒロコマナーグループでは、AIでもできるマナー研修は致しません。

 また、より良い人生を実現するための「ウェルネスマナー」が企業でも人材育成において大切な要素になります。私は最新のマナーとしてこれを取り入れた研修、講演を行なっています。それは、心身の健康、内面と外面の美、経済、お金、幸せな人間関係を生み出すきっかけとなり、自己実現をさせていきます。

 Manners maketh man. Manners maketh bussiness. Manners maketh money. Manners maketh happiness. 全ては「心からのマナー」から生まれます。マナーの心は世界・宇宙共通です。儀礼・マニュアルの堅苦しいルールの決めつけマナーから、礼儀・臨機応変・柔軟な心ある優しいマナーへ。お互いが相手の立場に立ち、思いやり合う平和な世界の実現に、マナーは必須なのです。


     ※2023年3月29日(水)の卓話をクラブ会報委員が纏めたものです。