卓話


今後の日本の安全保障と課題

2024年2月14日(水)

元統合幕僚長
川崎重工(株)顧問 河野克俊氏


 今、世界には3つ「ホットスポット」があります。ウクライナ、中東、そして潜在的に台湾です。

 まずウクライナを見たときに、一つ一つ分けて見ると、世の中を見破れます。

 ウクライナ戦争はロシアによる侵略です。侵略した方が成果を上げられずに長期化していくと不利になるのが一般的ですが、ここにきて、長引くほどロシアに有利な展開になりつつあります。去年10月にハマスがイスラエルにロケット弾を撃ち込んだことで情勢が大きく変わりました。

 ウクライナの弱点は、軍事支援をアメリカとNATOに頼っていることで、ここを細らせれば戦力ダウンは明白です。特にアメリカはユダヤコミュニティが強いため、イスラエルにも援助することになりました。ウクライナに対する援助の目減りは当然で、ロシアが息を吹き返しています。

 ハマスの後ろにはイランがいます。イランはウクライナ戦争でロシア側についています。私は、ロシアはこの攻撃を事前に知っており、自分たちの戦況を好転させるためにけしかけた可能性さえあると思います。

 次に北朝鮮です。今回のハマスの戦術は地下道を張り巡らして、パラグライダーでイスラエルの音楽祭に乗り込みました。これは北朝鮮の特殊部隊の戦術ですから、これも繋がっているのではないかと思います。北朝鮮はウクライナ戦争でロシア側についています。 ウクライナ、中東で火が吹けばアメリカの注意力がそちらに向きますから、潜在的に台湾を何とかしようとしている中国にとっても悪い話ではない。これらは全て関連していると思います。

 そうなると、世界の構図がだんだんはっきりしてきます。
 まず、日米、オーストラリア、NATOといういわゆる西側のグループがあります。今の国際秩序を是とし「力による現状変更は駄目」というグループです。

 片や、中国、ロシア、北朝鮮、イランです。これらの国々は、「そんなのは勝手にお前たちが決めた秩序じゃないか。それ自体がおかしい。新たな地図を組み立 てるのだ」というグループです。

 中長期的な米中対立はこの構図の中で動いていくと思います。

 つい先日、金正恩が「平和的南北統一を転換する。韓国は同胞ではない、敵国だ」と言いました。単に朝鮮半島を統一すればいいという話ではなくなった、もっと大きな構図の中で朝鮮半島を捉えるべきだという発想で方針転換したのではないかと思います。

 そして、ウクライナ戦争は、今ウクライナに対してNATOやアメリカから「クリミアも含めた4州を諦めて停戦しろ」という圧力がかかっており、ゼレンスキー大統領はそれを嫌だと言っています。

 ここにはロシア側の視点が抜けています。ロシアの目的はウクライナの中立化、非軍事化、非ナチ化ですから、それだけで終わるはずはない。要は、「ウクライナというのは元々ロシアなのだ」という発想です。プーチン大統領はウクライナ戦争とは言わず、「特別軍事作戦」と言っています。先日のアメリカFOXテレビのインタビューでは、図らずも「これは内戦だ」と言いました。

 プーチン大統領の世界観、歴史観による戦争であって、領土を取り合う戦争ではない。従って、ウクライナが頑張るほど長期化を免れません。今、転換点に来ています。

 台湾については、台湾にばかり目を近づけていると見誤ります。中長期的な米中対立が言われるなか台湾問題こそ米中対立の決勝戦と見る人たちも日本に結構いますが、私は中長期的な米中対立の入口論だと思います。

 冷戦中の米ソ対立の主たる舞台はヨーロッパでした。
 米中対立では太平洋、東シナ海、南シナ海の海洋が舞台になります。中国はアメリカと戦う場合の戦略として、第1列島線、第2列島線、第3列島線という考え方を持っています。ポイントは第1列島線で、日本列島、南西諸島、台湾の外側、フィリピンを通り、南シナ海に抜ける線です。アメリカと事を構える場合、南シナ海、東シナ海の内側には絶対に日米の艦隊を入れないということです。これを成立しなければ中国はアメリカと対決できません。アメリカの影響力がある台湾が目の前にいたら戦えないということです。

 この第1列島線を確保するために中国が解決すべき問題は3つ、香港、台湾、尖閣です。香港については国家安全維持法で完全に押さえ込みました。

 次は台湾、尖閣です。アメリカと対決する場合にはその前に片付けておくべき問題のため悠長な話ではないと見ています。

 今回の台湾総統選挙で、中国には屈しないという頼清徳氏が当選しました。任期は2028年までで習近平国家主席の3期目の任期は27年までですから、頼清徳総統を相手にせざるを得なくなりました。私は軍事オプションもあり得ると思います。世論戦、サイバー、フェイクニュース等々を含めたハイブリッド戦で一気呵成にやることを考えていると思います。

 しかし、アメリカと核戦争をしてでも併合するという位置づけではないし、アメリカの次の大統領が決まる今年11月までは様子を見ると思います。

 もしトランプ氏が大統領になった場合、台湾問題には介入しないと思います。私は現役時代にトランプ大統領を見てきて、トランプ氏は理念の人ではなく利害の人だと思ったからです。

 大統領に就任したら、中国には大幅な関税をかけるでしょう。しかし、台湾有事の際にアメリカの兵隊を駐留させる、あるいは莫大な予算を使って台湾を守る気はないと思うのです。

 私がトランプ大統領に疑念を持ったのは、米朝交渉でした。
 2017年、日米が協力して北朝鮮に強いプレッシャーをかけました。金正恩も脅威を感じて首脳会談をしたいとなり、トランプ大統領が乗ったわけです。2回会談を行ったものの決裂しました。

 普通、1発の核もミサイルも放棄していないのですから、もう1回軍事プレッシャーをかけるのが常套手段です。

 ところがトランプ大統領は米朝交渉が決裂した瞬間、急速に北朝鮮に対する興味をなくし、「米韓演習なんて金のかかるものはやめてしまえ」です。北朝鮮が日本海に変則軌道の弾道ミサイルを撃ち出すと、「どこの国だって行っている。問題ない」と言いました。

 今回、ウクライナに対しても「NATO加盟国で拠出金を払わないところにはロシアをけしかけて攻め込ませる」と言っています。それぐらいの感覚ということです。

 ここでアメリカというものを見てみます。
 トランプ氏が大統領に返り咲けば、アメリカ・ファーストに磨きがかかります。

 片やバイデン大統領はどうか。2021年にバイデン大統領は「自国のために戦わないアフガニスタンのためになぜ米兵が血を流す必要があるのだ」と言ってアフガニスタンから撤収しました。ウクライナ戦争はどうか。ウクライナは必死で国を守るために戦っていますが、アメリカが軍事介入すればロシアとの間で核戦争になる可能性があるため、そうしないのです。

 アメリカという国は、ヨーロッパから新天地を求めてきた人々が創りました。そして、モンロー主義によってヨーロッパとの相互不干渉を提唱した。これが原点です。

 第一次世界大戦時、ウィルソン大統領は参戦すると言ったものの世論が許さず、大戦最後の年に、ルシタニア号という客船がドイツのUボートに撃沈されたため参戦しました。

 第二次世界大戦は、ヨーロッパでは1939年にポーランド侵攻によって始まっています。チャーチルがアメリカに参戦を呼びかけたもののアメリカの世論が許さず、1941年の日本によるパールハーバー攻撃を機に参戦したわけです。そして、引き続き米ソ冷戦になり、流れの中でアメリカが西側のリーダーになり、西側の面倒を見ざるを得なくなりました。

 このときできたのが日米安全保障条約です。今の安保条約は「日本が攻撃されたら助けに来てください。あなたが攻撃されても助けにいきません」という構図です。今後、こうした関係が成り立つのか。危機感を持っていた故・安倍総理の下で私も安全保障法制に携わりました。しかし、いわゆる限定的集団的自衛権で、ほぼ個別的自衛権に近いものです。フルスケールの集団的自衛権はやはり憲法を改正しなければできません。

 アメリカは本来のアメリカに戻ってきつつあるため、安全保障の観点からも、憲法の改正については真剣な議論が必要だと思います。

 最後、憲法第9条への自衛隊明記について問題提起をします。
 少なくとも違憲論はなくなるためいいと思いますが、自衛隊は憲法9条の下で誕生したため、矛盾をはらみます。

 一番大きな矛盾は、自衛隊は元々は警察予備隊ですから警察の延長線上であるということです。法体系も警察法を元にし、ポジティブ・リストと言い、行っていいことだけを書いてあります。

 しかし、軍隊の本来の行動は国家を守ることで、極論すればいかなる手段を使ってでも国を守るのがその精神です。行ってはいけないことをリストに挙げ、それ以外は全部行っていいネガティブ・リストが諸外国の軍隊のベースです。

 典型的な例が1975年に日本赤軍が起こしたクアラルンプール事件です。日本政府は人質解放のために超法規的行為で囚人を釈放しました。同様の時期にソマリアのモガディシオでルフトハンザ機のハイジャック事件が起き、西ドイツのシュミット首相は特殊部隊を送り込み強行突破して犯人を捕まえました。

 対照的でした。日本の当局は西ドイツに「何の法的根拠でやったのか」と聞いたそうです。すると、「特殊部隊をモガディシオに着陸しているルフトハンザ機に突入させてはいけないという法律がないのでやった」。これがネガティブ・リストです。

 ですから、憲法に自衛隊を明記しても、自衛隊が誕生以来持ち続けている矛盾は解消しません。


       ※2024年2月14日(水)の卓話をクラブ会報委員が纏めたものです。