卓話


「鮨」を通じて日本文化とおもてなしを世界へ伝える

2023年11月8日(水)

松乃鮨
四代目 手塚良則氏


 私は鮨屋の四代目として生まれました。海外の方に鮨を通じて日本文化の素晴らしさを伝えようと活動しています。

 店は大森海岸、海苔の養殖が始まった地域にあり、羽田空港も近くです。昔は花街として賑わいました。古い日本家屋の店には座敷2つとカウンターがあり、いろいろなお刺身、お酒なども用意しています。

 私は5歳の頃から鮨屋を継ぐことを決めていました。大学で異文化コミュニケーションを学び、将来は世界中のお客様をお迎えしようと考え、まず世界を見ようと、卒業後4年間はスキーガイドをしていました。

 スイス、イタリア、ニュージーランド、カナダなどに駐在し、ヘリスキーも行っていました。クルーズ船のプライベートガイドもして、1年のうち250日は雪の上を滑り、雪がないときは海の上かワイナリーをぶらぶらしていました。

 今も国内外を飛び回っています。月に一度、世界のどこかに参ります。朝、豊洲市場で仕入れた魚を捌いて、臓器移植で使用する箱を使って温度や湿度管理を行い、昼頃のフライトに乗ります。そして、海外の空港に着いてから2時間後には鮨を握っています。

 普通に鮨を握るだけではありません。例えば、東北復興のチャリティーイベントでは雪の上でお寿司を握りました。北極海クルーズのオーロラの下でも鮨を握りましたし、イギリスのバッキンガム宮殿、Royal Windsor Cupというポロの大会では500名様に日本の文化と鮨を提供しました。そして、G20大阪サミットでは世界のファーストレディーに日本文化とおもてなしを伝えました。

 講演、食育、国際交流も行っています。母校の慶應義塾大学の国際交流センターで授業を持ち、多くの留学生に食文化を紹介しています。また、SDGsをテーマに持続可能なお魚だけで鮨を握るというパーティーをニューヨークで行いました。

 今、インバウンドで海外から多くのお客様がいらっしゃいます。うちのお昼は海外の富裕層の貸し切りです。2名様でも4名様でも貸し切りでお迎えします。一緒に市場に行き、どのように魚を選んでいるかを英語で説明します。そして、そのお客様が好きなものをその場で仕入れます。持って帰ってきて一緒に捌いて、私が鮨を握って召し上がっていただきます。「ウニが好き」と言ったら3種類位を買って食べ比べを、「マグロが好き」となればマグロの塊を買っていろんな部位を食べてもらいます。実際にご自身で握って食べてもらうこともやります。

 鮨を通して日本の漁業の現場と素晴らしさ、鮨がどのように作られているのかを伝えるため、私自身も年に1回マグロ漁船に乗りますし、先月はうちのスタッフ全員で伊東の漁船に乗りました。そこで体験したことを全部、スタッフ共々、英語で海外の人たちに伝えています。

 鮨カウンターは日本文化の集約です。畳2畳あれば日本文化を伝えられます。プライベートジェットや病室、企業の会議室でも握っています。

 以前、40名様ぐらいで海外の企業との交流をしたいという依頼がありました。普通の日本企業の会議室を、鮨の文化を発信する場に変えます。屏風、花、器も箸もすべて持っていき、ベジタリアンメニュー、ハラール、コーシャ(ユダヤ教の食事規則)も全て対応します。お客様が好きなものを事前に伺い、食事を用意します。

 鮨を提供する前に講演をします。会場に入ってきた皆さんに、今日のしつらえ、生けた花の意味、どのような季節なのかを説明しながら、鮨の歴史、日本の食文化、おもてなしの仕方などを話し、わさびおろしほか、包丁なども持ってもらい、西洋の包丁との違いなども知っていただきます。

 もちろん鮨はそのお客様に合わせた大きさで提供するとともに、各テーブルには手巻きセットなどを用意して、日本の方が海外の方に手巻き寿司のやり方を教えたりしながら各テーブルで話が弾むようにします。

 最後は、メインの方に鮨を握ってもらい、思い出を作っていただきます。1、2時間を使って食を楽しみ、日本文化をお伝えする、これが私の提供しているサービスです。

 「何が“すし”なのか?」とよく聞かれます。いろんな答えがあります。
 日本人がイメージするのはやはり生の魚と酢飯の組み合わせだと思いますが、カリフォルニアロールもメジャーで海外の方はこちらを想像することが多いかもしれません。日本の中にも押し寿司、柿の葉寿司、こけら寿司、鮒寿司などいろいろな種類があります。

 世界にはいろいろあります。イチゴを巻いたもの、ドーナツの形にしたもの。ロンドンの二つ星のおすし屋さんは餃子の皮の上に酢飯を乗せ、さらに焼いたフォアグラと椎茸が乗ったものを出しています。マンゴーのすしはブラジルやヨーロッパでメジャーです。トンカツを巻いて周りに七味唐辛子をまぶしたものは刺激的で実は美味しいです。こういったものが世界で“すし”と言われています。

 すしと言っても生の魚を食べるのは非常に限られた地域です。生の魚を食べるためには温度管理がしっかりでき水が綺麗といった条件が必要になり、先進国の食べ物になってきます。

 私がイタリアで世界150カ国の方に鮨を握ったときは、生の魚を召し上がったことのないアフリカや南米の方がいて、鮨を見てツンツンと触り、クンクンと匂いを嗅いで転がし、食べないで帰ってしまうことがありました。

 うちのスタッフにもこういった話をしています。
 例えば、遠い海外の国に行き、先住民のおもてなしを受けたとします。「よく来たね。せっかく日本から来たんだから」と特別な野生動物を買い、「この動物の首が美味しいんだよ」と言って、皮を剥いで血がしたたっているような肉を生のまま手で持って「さあ食べてみて」と差し出してきたら、どう感じるでしょうか。

 海外の方にとっては、アジアの東端の日本人が、今まで知らないような生の魚を素手で握って「はい食べて」と言っているのが鮨です。初めての方にとってはとてもハードルが高いものになります。

 もちろん、「日本にはこうした魚文化がある」「新鮮なのは温度管理されているから」といろんなことを説明しお伝えしていますが、やはり食べられない方も多いのです。そのときは、精進料理を基にした野菜の鮨を提供しています。「ベジタリアンのお鮨」と言って提供しています。

 実際、江戸前鮨の歴史の中で野菜の鮨を提供している時期もありました。戦時中、魚が獲れないときは野菜の鮨を提供していましたし、かんぴょう、太巻きなど野菜が入っている鮨をご存知だと思います。

 G20大阪サミットの配偶者プログラムでは20名様全員が違うメニューでした。グルテンフリーの人がいればハラールの人もいる、生野菜のみの人、温野菜だけの人もいて、あらゆる宗教とご要望に対応したメニューを組みました。

 ちょうど1年前の日本インド国交70周年記念式典が在インド日本大使館で行われたときには100名の方を全て野菜鮨でお迎えし、インドの方々に日本の野菜のストーリー、日本の食材の素晴らしさを伝えました。

 さらに、鮨だけにとどまらず、さまざまな日本文化の方々を呼んでのイベントも行っています。日本文化に造詣の深いスタッフが鮨以外の日本文化をプロデュースします。いろいろなネットワークを使い歌舞伎、和菓子、浮世絵などを伝えます。

 当店で20名様25名様のグループをお迎えするプログラムには、お座敷で目の前でマグロを切るのを見て、芸者の歌や踊りを楽しみ、鮨の体験握りをするものがあります。

 海外の方が日本に滞在するのは1週間、お忙しいビジネスの方は2、3日ぐらいだと思います。そのうちの2時間をいただき、日本を楽しめるようにします。例えば、お味噌汁は東京と京都のものでは違うことを説明し、日本の旅が楽しくなるよう用意しますし、芸者さんの踊りに関しても、どのような踊りなのか、曲や踊りにどんな意味があるのかも伝えます。その後に体験握りです。短い時間にギュッといろいろなことを経験していただきます。

 文化や人種の違い、どれぐらいお鮨を好きなのか、そうしたことによってメニューも全てカスタマイズしています。相手の文化を知り自国の文化をお伝えする、それが私の鮨交流です。楽しく笑顔になって、「やはり日本の寿司はすごいな」と言って帰ってもらうようにしています。

 さて、普段の講演では必ずお鮨を握りますが、今日は残念ながら握れないため、代わりに大井の芸者をお連れしました。演奏と踊りを見ていただき日本文化を体験していただきたいと思います。

 東京の花柳界は浅草、向島、赤坂、芳町、新橋、神楽坂といろいろあり、同じ曲でも踊り方が異なり、そこに文化を感じることができます。こうした文化も交えながら、鮨を通じて一生に一度の思い出となる、日本でしか味わえない体験を世界の方々にしていただいています。

 今後、日本は経済が下がっていく部分もあるかと思いますが文化力は高い次元にあります。そこをきちんと皆様にお伝えしたい。鮨だけではなく、使う器、その場のしつらえ、食材のこだわり、いろいろなことを通じて日本の価値、素晴らしさを世界に発信していきたいと思います。


   ※2023年11月8日(水)の卓話をクラブ会報委員が纏めたものです。