卓話


副業のすすめ

2024年5月22日(水)

山口大学大学院技術経営研究科
教授 林 裕子氏


 私の年代の女性は男女雇用均等法の初期で、結婚や出産により、働く機会が少ない時代でした。夫が将来、政治の道に進む予定だったため私はフルタイムの仕事を続けるのが難しく、そうではない仕事を細々と続けてきました。今になっていろいろな副業の相互作用で仕事がうまくいき始めています。その利点と仕事の経験から気づいた課題についてお話しします。

 副業が望まれる背景には、4つの要素があります。
 日本がキャッチアップ型からフロンティア型に変化し、人と企業の関係も変わってきました。ITやディープテックベンチャーなどが生まれ、新たなビジネスモデルにより年功序列や終身雇用の形態が崩れ、副業という形が出てきました。

 そして、少子化で働き手が少なくなり、高齢化で定年後も長い人生の第2ステージが待っています。

 3番目はDXの進化で、これはコロナ禍で非常に進み、リモートで仕事が可能になりました。AIによって多くの仕事が自動化、代替される可能性が高くなっています。

 そして、一番大きいのが政府の後押しです。2018年が「兼業・副業の元年」と言われています。厚生労働省から副業・兼業の促進に関するガイドラインが出ており、2017年には77.2%の企業が副業・兼業を禁止していましたが、5年後の2022年には70.5%の会社が副業と兼業することを認めており、大きく逆転しています。

 次に副業の利点です。スキル、収入、ネットワーク、リスク軽減という4つがあります。

 スキルの面では、その向上、多様な視点ができる、キャリアの多様性が増える、自分が成長する、趣味を追求することができるなどがあります。

 収入に関しては、それが増加したり、税制面で優遇されたりすることがあります。
 多くのネットワークが副業によって形成され、その多様性が出てくるなど、今まで知り合ったことのないような分野の人たちと知り合う機会が増えるという利点があります。

 リスク軽減については、例えば自分の本業が駄目になっても副業によってフォローすることができたり、副業のためのスキルアップをし、副収入によってリスク分散ができたりします。退職後の準備にも繋がるのではないでしょうか。

 そして、政府の副業解禁の意図は、日本で少なかった創業を増やすことだとガイドラインも述べています。オープンイノベーションや起業の機会が副業によって増えると考えられています。

 分野は4つです。学術、官公庁、民間NPO活動、産業で、私もこの4分野に少しずつ属しています。

 まず、官公庁分野では、夫が国会議員で政治家の妻としての仕事をしています。学術分野では山口大学、産業分野では新薬開発企業や民間団体の仕事もしています。

 私は大学卒業後、IBMでシステム開発などに携わり、その後、ワシントンDCの米国連邦議会中継のTV局CSPANでインターンをしました。

 本業は大学での医療のイノベーションの研究です。そして、学術分野に関しては、日本学術会議の連携会員、イノベーション創薬研究所の理事、横浜国立大学の運営諮問会議の委員をしており、今後、横断型基幹科学技術研究団体連合の理事も務める予定です。任期が終わったものは内閣府の男女共同参画連携会議の有識者会議会員などです。

 民間分野では、公益社団法人3.ll震災孤児遺児文化・スポーツ支援機構の常任理事、引きこもりの若者の自立支援をする特定非営利活動法人JACFAの理事、カナダの日系人の支援のためのカナダ友好協会の副会長、レディースバドミントン連盟の山口県や中国地区会長、日本レディースバドミントン連盟の顧問、アジア美術家連盟の日本委員会会員、公益財団法人川村育英会では理系の人たちの奨学金を出す審査員などを務めています。

 最近では、アメリカで3600万人がプレイしているというピックルボールの日本連盟を創設し理事を務めています。また、スペシャルオリンピックス日本という知的障がい者に運動を通じて社会活動の機会を提供する公益財団法人の理事も務めています。

 こうした副業が互いに作用しながら相乗効果を産み、それぞれのところで効率よく仕事をできています。ジェンダーの平等や医療のイノベーション、地域との対話集会でこの相乗効果が貢献してきた例をお話します。

 夫と結婚し、夫がアメリカの議会で働くのに付いて私もアメリカに行き、CSPANで働きました。女性のボスが妊娠中で出産日を聞くと、「今日です」と言うので驚くと、「子供は生まれてきた後の方が大変だからお腹にいるうちはいいのよ」と言って仕事をしていて非常にかっこいいという印象でした。日本では妊娠すると「仕事を辞めてください」というアンコンシャスバイアスが当たり前の時代でした。

 私はその後、マサチューセッツ工科大学に留学し在学中に妊娠しましたが、CSPANのボスのお陰で妊娠中であることに気を遣いすぎずに過ごすことができ、修士論文を提出した次の日に出産しました。それが、今日5月22日、娘の誕生日です。このように異文化から学ぶことが多く、その中で自分も仕事を続けてきてよかったと思っています。

 その後、男女共同参画の政策に携わるようになりました。日本学術振興会の資金提供を受けて、理系の女性の科学的分析などを行い、理系に行く女性は理系の母親の影響を大きく受けているという仮説を裏付ける証拠を示す研究などを行い、証明できました。理系の父親から娘が影響を受けられるようになると、もっと理系の女性が増えていくのではないかという新たな仮説を生み出すこともできました。そして、こうしたことを第5次男女共同参画基本計画に取り入れることができました。

 エビデンスに基づいたアクションに結びつける立場に至り、そこでまたアクションが法律や規則やシステムを作っていくという、自分が付属的な仕事を複数持っていることでこうしたことに貢献できることを肌で感じました。

 私は医療イノベーションの領域で神経科学分野の様々なファンドの審査員も務めています。理化学研究所の稲田研究員がそれに応募して「攻撃性を示す雄のマウスが赤ちゃんのマウスを育てた時に優しく穏やかになった」という研究をしました。出産・育児に重要な役割を果たすホルモンであるオキシトシンは母乳から出たりします。「母親はオキシトシンによって母性本能があるため赤ちゃんの世話をするべきである」という一般的な理論がありますが、実は男性にもオキシトシンが出て男性が子育てすることによって優しくなる、そうした研究成果を示すことで、男性の育児休暇の取得率がまだ低い日本に対するヒントになりました。

 医療のイノベーションの分野では、再生医療のプロセス、特に動物実験代替法やAIの安全性の有効性の品質研究などをしています。私はフルタイムの教授ではないため、社外取締役を務める医薬品開発のJCRファーマで実際の現場を見たりすることで、両方の分野での新しい政策に結びつけることが可能になっています。

 また、データサイエンスや遠隔医療にも携わった経験を生かし、NPOで行っている引きこもりの支援の中でデータサイエンスのアバターを使った実験をしています。引きこもりの人たちが自宅から直接医師の診断を受けることに繋がるようなプロジェクトを福岡県と行い、実際に効果が出ています。

 引きこもりの支援はずっとボランティアで行い、自分の研究と結びつくことは考えていなかったのですが、データサイエンスやアバター、メタバースが出てきて結びつけることができました。

 地域との対話については、地域の対話集会の質が変わってきました。30年以上前に結婚した時は、婚約披露で2000人規模のパーティーが行われ、結婚披露宴も東京で1回、地元で4回、地元の公民館で10回以上行い、後援会活動ではできるだけ多くの皆さまと握手をすることが当たり前でした。

 今は地域に行って対話集会をすると色々な意見が出てきて、過疎地域の問題を直接聞くことができます。それを、例えばデータサイエンスを使って解決できないか、自分の知識を有効に利用しながら個別的な解決策を一緒に見つけていけるようになってきました。地元の方も自分たちの地域の特色ある解決方法を考えてくださるようになっています。現場と直接対話し問題解決に繋がることは非常にいいと思っています。

 今でも女性の正規雇用が少ない中で、もちろん正規雇用を増やすことも大事ですが、副業は働き方の大きな選択肢になります。男女共同参画白書(令和5年度)によると、「子供ができても、ずっと仕事を続ける方がよい」と働きたい女性も時代を追うごとに多くなっていることが示されています。

 最後に副業の課題についてです。課題はジョブディスクリプションと契約、そして、利益相反です。

 政治家の妻は夫を手伝うのが当たり前と考えられていますが、例えば公設秘書になれませんし、しかし資産公開をしなくてはならず、外務大臣の妻は公式の名刺があり一部の仕事には手当が出ますが、ジョブディスクリプションがきちんとなされておらず、そうした中で利益相反が出ることを指摘されることもあります。

 私も自分の研究の仕事なのに、「政治的な偏りがあるからそのシンポジウムには出られません」と言われたたり、投資家の方に「あなたの夫が大臣になったら、あなたは仕事を辞めなければなりません」と言われたことがあります。こうしたジョブディスクリプションと利益相反についてきっちりと解決していくことが必要です。

 副業は、スキル、収入、ネットワークといったものが身につき、そして日本で少なかった創業を増やす一つの大きな手段になると自分の経験から感じています。


    ※2024年5月22日(水)の卓話をクラブ会報委員が纏めたものです。