卓話


サーキュラー・ティンバー・コンストラクション

2024年2月7日(水)

(株)大林組
代表取締役副社長執行役員 笹川 淳君


 本日は「サーキュラー・ティンバー・コンストラクション」と題しまして、建設業の脱炭素への取り組みの一つとして、木造から考える循環型建築についてお話させていただきます。

 世界の産業別CO2排出量を見ると、実にその約4割が建設関連となっており、さらにその内訳は、建設時が30%、建物使用段階が70%となっています。建設時に排出されるCO2は、建設現場での排出だけではなく、資材の製造や運搬にかかるCO2も含んでいますので、様々な段階でCO2排出削減が求められます。本当の意味で社会を持続可能なものとするためには、脱炭素だけではなく、資源を再生可能なものとすること、生産された資源を無駄なく利用・再利用することの両方が必要です。この観点から、加工の容易さと一定の強度を併せ持ち、循環型資源である木材が最もポテンシャルの高い材料と言えます。

 木材は再生可能であるため、伐採して燃やしてCO2を大気中に放出したとしても、カーボンニュートラルであると言えます。建築材料として使用すると、セルロースに含まれる炭素を長期間固定し、大気中に放出するCO2を減らすことになることから、カーボンマイナスであるとも言えます。さらには、製造時のCO2排出量が多いコンクリートや鉄を、カーボンマイナスである木材に置き換えることで、ライフサイクルで排出するCO2を大幅に削減することが可能です。この「固定」と「削減」によりダブルで脱炭素に貢献することができるのです。

 日本には恵まれた森林資源があり、この 50 年木材量は増え続けています。人工林の多くは杉ですが、およそ40年で木材として伐採できる程度に育ち、また40年掛けて急速にCO2 吸収力が衰え、ピーク時の半分以下になります。したがって脱炭素の観点からみると、樹齢40 年を超えた杉は積極的に伐採利用して新たに植林することが理想ですが、国内人工林の約半分が樹齢50年以上の老齢樹となっているのが現状です。

 こうした森林の老齢化状況を考慮し、林野庁の木造建築物需要増大シナリオでは、低層木造住宅の国内木材自給率を高めることで3割、低層非住宅建築の木造化率を高めることで3割、中高層建築の25%を木造化することで残り4割を達成するとされています。この中高層建築の木造化推進には、純木造あるいはハイブリッド木造が、コスト面でも成立するよう、木材を多く使うことを価値に転換するブレイクスルーが不可欠であると考えます。

 社会における木材の生産と流通はしばしば川に例えられます。林業が「川上」、製材加工業は「川中」、材料を消費する建設業は「川下」と呼ばれます。昨今、川下ではESG投資の拡大、中大規模木造建築の増加、海外資源の高騰などにより、国内木材マーケットへの資本流入が始まっています。これが続くと川中では、設備投資の増加、工場立地の開拓といった事業拡大が見込まれます。さらに川中の活動が盛んになれば、最終的には川上へと資本が還元され、原木供給の拡大、再造林の推進などが期待できます。

 川上の再造林も、川中の加工工場拠点拡大も、確かな木材需要が無ければ促進されないため、川下側の動向、特に建設業が非常に重要な役割を担っています。政府が木造建築を推進しているという背景もあり、建設業界では現在、木造建築を普及すべく、コスト低減はもとより、木造化率が低い非住宅分野、中大規模、中高層建築の木造化、或いは木質化を積極的に推進しているところです。

 取り組むべき課題は多岐に渡りますが、まずは川下と川中をまたぐような動きから始めることが「サーキュラー・ティンバー・コンストラクション」の実現に繋がっていくと考えています。今後、関連するすべての業界が、同じ目標を共有しながら一歩ずつ前進することで、世界有数の森林国である日本の森林資源を最大限活用し、環境にも経済にも大きく貢献できる枠組みが構築されることを願っております。