卓話


「食の熱中小学校」の紹介

2024年1月31日(水)

(一社)熱中学園
代表理事 堀田一芙氏


日本、特に地方を元気にするプロジェクトである「熱中小学校」と「食の熱中小学校」を紹介します。

キャッチフレーズは「もういちど7歳の目で世界を」です。7歳の小学校入学当時、私たちは先入観がなく、ワクワクドキドキして毎日が新鮮でした。ですからこのプロジェクトを始めた時に私も7歳に戻りました。そして、7日後には77歳の誕生日を迎えます。私の著書は『老いてからでは遅すぎる』ですが、その趣旨は「老いてからでも遅くないぞ」です。
 熱中小学校は、国内20ヶ所、シアトルに1ヶ所の計21ヶ所あります。大人の社会塾です。10年前、山形県高畠町にある小さな木造の廃校を何とかしてくれと山形の友達から頼まれ、寒い雪の中、廃校を見に行きました。役場の人と飲んでいるうちに、「子供たちがいなくて廃校になった学校をもう1回開校するのは面白いのではないか。米沢市や山形市にも大人がたくさんいるのだから、大人のリカレント教育の場に変えるプロジェクトが面白いんじゃないか」と言いましたら、「やれ」ということになり、約30人のボランティアの先生を集めて始まりました。かつて水谷豊主演のTVドラマ『熱中時代』の撮影の舞台となった縁から、熱中小学校と名付けられました。

 今、先生は300人ほどの方に登録していただいています。交通費と宿泊費のみでギャラは一切ない条件で、全く知らない小さな町や村に出かけてくれる方たちです。史上最高齢のITプログラマーの若宮正子さん、分とく山の野崎洋光さん、ピーター・バラカンさん、そうした各界の方に携わっていただいています。

 20歳から90歳までのいろいろな職業の方たちが生徒として教室に集まります。先生方はどんな方が集まっているか知らずに行きますが、みんなとても熱心で、教室にはだんだんと熱量が溜まってきます。「こんなに熱心なんだったら、次も呼ばれたら行こうかな」、それが線になって繋がって学校が継続されてきました。

 「熱中パスポート」があり、どこの学校にも行けます。コロナ禍で授業をオンラインにしましたので、相互交流も行われています。面白いのは、そうやって熱量が溜まってくると、いろいろな場所でいろいろなことが起こることです。

 生徒さんは自発的にクラブ活動をやっています。高畠町では廃校の周囲の耕作破棄地に葡萄を植えて高畠ワイナリーさんとワインを作り、「熱中ワイン」として販売し、地域が元気になっています。そうした全く新しいことをいろいろな先生と地方の人たちが始める、まさにこの7歳の目でチャレンジするということが起きています。

 そうはいっても、日本は東京一極集中が止まりません。特に若い女性が相対的に出生率の高い東京に集まり、結婚されない、あるいはできないことから、人口の都市圏集中が少子化の原因の一つになりました。今回の能登半島地震も高齢化、過疎化した地方を襲った災害の厳しい状況を示しています。

 私たちは、地方を元気にして明るくするだけではなく、首都圏の人と相互の交流活動が大切だと気づきました。地方には生産者がいる、水がある、空気がある。必要としているのは我々東京の消費者ですから、消費者と生産者を交流させる学校を作ろうということになり、昨年9月に東京に食に特化した「食の熱中小学校」を開校しました。

 生産者と消費者をつなぎ、食べる楽しさを育むコミュニティーづくりを目指します。食料生産地である地方と最大消費地である首都圏との関わりを学びの力で繋ぎ直す大人の社会塾です。

 この活動は、内閣府から地方との関係人口創りの補助事業に採択されました。日本の地方に残る食文化は宝です。生産者の現場で活動を見たり、参加したりして採った食材と食卓で、豊かな地方の食文化を生産者の皆さんと一緒に学びます。

 校長先生は文藝春秋におられた柏原光太郎さん。『日本美食立国論』がヒットしています。それは、美食家がどこかのレストランを見つけるとみんなが行くという現象が起きている、食のために出かけていくという新しいツーリズムが起きた。日本の地方の豊かな食文化を海外の人たちが見逃すわけがない。最終的には日本はこれで観光立国すべきじゃないか、というものです。

 名誉校長は和歌山の東洋ライスの雑賀慶二社長、90歳の現役の方です。お米を改良したもので食生活を変えて、日本の財政赤字等を減らせないかという「医食同源米によって我が国の国難を解決するためのコンソーシアム」を最近組まれました。それから、三菱総研の松田智生さんとCOOK LAB.の綛谷久美さんが教頭という学校体制です。校長、教頭先生はボランティアで、食を通じた生産者、消費者の交流が日本を豊かにするという考えに共感いただきました。

 1期は6カ月で毎月1回の座学と懇親会です。懇親会では地方から来る食材を使い、地方との食の繋がりを考えます。オプションとしての地方への体験ツアーも行っています。授業料は1期2万円、体験ツアーは別途の支払いです。

 今167人の生徒さんがおり、首都圏3県に住む方が80%、最高齢が88歳で、若い方が30歳位で平均年齢が52、3歳と50代がたくさんいます。

 第2回目の授業は、中川めぐみさんという釣りが趣味でついにそれを仕事にした女性が先生を務め、趣味という漁がどのように地方の漁港を元気にしていくかという楽しい内容でした。社会的な関心があって、自分の時間をコントロールできるような人たちが生徒さんですから盛り上げ方の上手い人たちが多くて、新しいコミュニティーが生まれていて、びっくりしました。

 地方に行くツアーは、熱中小学校の事務局が、旅行会社では絶対作れないような面白い旅をたくさん作っています。

 第1期の体験ツアーは12回実施しました。参加者は平均6、7人くらいで、短期間で小規模ながら初めての体験にあふれたものになっています。人口3600人の和歌山県すさみ町を訪ねた時は、町長さんも参加されて、食べたり作ったりお酒を飲んで、すさみ町の皆さんと交流する楽しい旅になりました。体験ツアーはこのように各地の個性にあふれた異次元の旅になっています。第2期は現時点で11か所にて準備中です。この内容は、「食の熱中小学校」WEBで更新していきます。

 今、4月入学の第2期生を募集中です。1期から2期に継続される方と、2期から新たに参加いただける方を合わせて150人を募集します。ぜひ3月27日のオープンスクールに参加して雰囲気を味わってみてください。

 最後に、私どもも能登半島地震について非常に憂慮しています。食という共通項から能登半島地震に対する支援として、被災したシェフたちが自分のレストランが壊れてもそれを顧みずに炊き出しを行っていますので、そのグループへの募金を行っています。

 まだ被災地への体験ツアーは慎重にと考えており、まず富山県高岡市で懇意の国宝瑞龍寺で6月8日(土)に熱中小学校の音楽担当教諭である元オフコースのドラマー大間ジローさんと津軽三味線の黒澤ヒロさんのグループユニットSoul & Beat TEN-CHI-JIN(天地人)による地震被害に遭われた方々の鎮魂の為の復興音楽祭を主催します。

 熱中小学校には2つの被災地校があります。
 2019年台風9号で阿武隈川が決壊した宮城県丸森町、2020年7月線状降水帯の豪雨で球磨川が決壊した熊本県人吉市です。周囲の学校が支援して始まり、世代を越えた学びの場は人々を励ましてきました。物理的な復興は長い年月がかかりますが、学びや心の交流がないと、ただ人や時間を失ったという喪失感が残るだけという例もあるのです。

 この4月以降に、どのような形で地方とのプログラムを作るか考えているところです。能登半島地震は日本の地方が直面する現状を表しています。少子化の中で地方がどうやって生き残っていくかという問題は、日本の非常に厳しい問題です。しかもどこでも災害は起きます。これは大変な状況です。いざというときに頼りになる人が自分とは違う地域にいるかということが問われてきています。

 もう一つの支援としては、食の熱中小学校が行っている実習ツアーに生徒が参加した場合、例えば1万円、2万円の寄付を募って貯めていき、能登を支援するための基金にしていこうと考えています。石川・能登ではなくても、我々が他の地方に旅をすることで寄付金を積み立てていきます。

 「もういちど7歳の目で世界を」と考えれば考えるほど、日本は今こうした考え方がいっぱい必要だ、常識を超えるようなことをやっていかなきゃいけないと思っています。ぜひ皆様も日本の豊かな食文化を、生産者や生徒さん同士の交流を通じて日本を元気にする活動に参加いただけるようよろしくお願いいたします。私もやがて80代ですが、老いてからでも遅くありません。重ねて入学や復興支援のご参加をお待ちしています。