「子どもの貧困」から考える学びの土台づくり
〜すべての子どもが地域で支えられる社会を目指して〜
2026年9月2日(水)
認定NPO法人Learning for All
副代表理事 石神駿一氏
Learning for Allは、子どもの貧困の本質的解決を基に子どもに包括的な支援を届けて、持続的に課題解決がされる社会を目指して活動しているNPO法人です。
2010年に活動開始し、2014年7月から法人格を持って活動しています。常勤職員69名、インターン45名、業務委託26名に加えて大学生ボランティアが常に約80人活動しています。
私は静岡県出身で、新卒で電通に入り4年半、営業職に就いていました。当法人代表の李 炯植と出会い、子どもの貧困という社会課題を知った以上、関わらなければいけない、解決しなければいけないという強い思いが生まれ、気づいたら常勤職員として一番古株になり12年社員として仕事をし、現在、副代表を務めています。
「隠れ貧困」という言葉があります。子どもの貧困はどの地区にもあり、そして見えづらいことが課題です。私の小さい頃は服装などから家庭があまり裕福ではないのかもしれないと気づくサインがありましたが、今はファストファッションが広がった影響もあり、見た目から貧困や苦しい状況にあると推測するのは難しく、子どもの貧困をより複雑な課題にしています。
今、子どもの9人に1人が貧困状態にあります。GDP世界3位の日本において、一人親世帯の半分が貧困という実態です。年間195万円、1ヶ月16万円以下で暮らす子ども達が一人親世帯では半分いるということです。死ぬことはないかもしれませんが、将来の貯金、子どもへの教育投資にお金が回らないことは明白です。
私たちは、そうした子ども達に対して2010年から東京都葛飾区で無償の学習支援を始めました。公民館や学校の空き教室を利用し、生活保護世帯や経済的に苦しい環境の子ども達に大学生のボランティアが一対一もしくは一対二ぐらいの少人数で勉強を教えました。
中学2年生でアルファベットを書けないという子どもに何人も会ってきました。そうした状態の子どもが英語の授業で長文読解や英会話をできるわけがありません。授業ではずっとつらい時間を過ごすようになります。このような子どもに対して、大学生が勉強を教えています。
大学生たちもプロではありませんから、目の前の子どもに勉強を教えてもらうために私達は40時間の研修を行い、子ども達への向き合い方、勉強の教え方を徹底的に教えて送り出しています。
子ども一人ひとりに合わせて、10時間以上を費やして個別の教材作成・指導準備を行います。文字が小さいと文字がぐちゃぐちゃ動いているように見えるディスレクシアという学習障害を持っている子どもがいますので、文字のポイント数を大きくしてプリントアウトして教材として渡す、あるいはポケモンが好きな子どもがいたら教材にポケモンをプリントアウトしてページをめくってもらえるようにする工夫をしています。
そして、各ボランティアに大学生メンターが付き、勉強を教える様子を見て、終了後に振り返りをしてフィードバックし、次回の学習の効果が高まるようにしています。多くの子ども達が、大学を含め希望する進路に進むことができています。
今日は9月2日で、私はソワソワしています。毎年、学校が始まるこの週に痩せる子どもがたくさん出てくるからです。夏休みは給食がありません。家でバランスが取れた食事、栄養を摂取できない家庭もあり、夏休み明けはガリガリになる子が出てきます。そうした子ども達を見る中で、私達は学習支援だけやっていても一部の助けにしかなっていないことを痛感し、2016年から小学校低学年向けの居場所づくりに従事してきました。子ども達が当たり前の生活をできるようなサポートを日々行っています。
当たり前の生活環境が整っていない子どもが大勢います。そうした子ども達と日々の生活を共にし、ご飯を食べる前に手を洗う、うがいをする、三角食べをする、お風呂に入るなど、当たり前の生活を東京都葛飾区、板橋区、埼玉県戸田市、茨城県つくば市、兵庫県尼崎市といった都市エリアの子ども達に提供しています。
そして、早期から切れ目なく包括的に子どもを支えることが必要だと痛感し、地域協働型子ども包括支援というモデルを作り活動しています。
子どもの貧困は非常に複雑です。生活保護世帯で、多くの兄弟がいて、ヤングケアラーをしていて、親御さんに障害があり、外国籍である時もあります。一つだけでも生きづらさがありますが、そういった生きづらさを一人でいくつも抱えている子どもがたくさんいます。そのため、学習支援など単一の支援では救えません。まず安心安全な居場所を届けて、その居場所で信頼できる大人との関係を作る。そうして初めて小さな成功体験ができ、小さな挑戦ができるようになります。そのように自己肯定感を高めていくと、やりたいことが増えていきます。
子ども達には挑戦させて、頑張らせなくてはダメだとよく言われますが、挑戦するにもまず土台が必要なのです。土台としての居場所や、子どもが自分らしくいられる場所を社会が作っていく必要があると思います。
質の高い支援を全国に広げる活動をしています。北海道から沖縄まで子どもに関わる活動をする素敵な団体がたくさんあり、そうした団体から学びながら、私達が培ってきたノウハウを提供しています。例えば、子ども食堂を月一回行っている仙台の団体に私達のノウハウを提供することで、学習支援もできるようにします。そうした形でノウハウが広がることで間接的に支援される子ども達が全国に増える、そういったインフラ、仕組み作りを進めています。
ただ、子ども支援に関わる全国の団体をエンパワーメントするだけでは社会課題は解決しません。上流から世の中の仕組みを変えていかなければ、この課題は取り残されたままです。
2021年に、岸田首相(当時)が私達の葛飾の現場に来てくれました。後日、後藤厚生労働大臣(当時)も見学に来てくれ、その中で、高校2年生のS君が直接、大臣にこんなことを言いました。
「ねえねえ、大臣、ちょっと俺の話聞いてくれよ。俺さ、この場所が大好きなんだよ。俺、不登校で学校には行ってないんだけど、この場所が好きなんだよ。だけど、俺の家からここまで1時間以上かかるし、片道400円かかるんだよ。だから月に1回か2回しか来れないんだよ。だからさ、大臣、俺の家の近くにもさ、こういう場所作ってくれよ」
思いを直接ぶつけてくれました。こうした子どもたちをはじめとする社会の声を受け、2024年4月に私達が行っている居場所づくり事業が法定事業化されました。全国1700の自治体の中に居場所づくり事業をやりたいという自治体がいれば、国がお金を出します。2024年に施行され、25年には全国で159の自治体が手を挙げ、27億円の市場が新しく作られました。
私達が行ってきた活動が国の制度を変えて、サステナブルに子ども達を支えられる仕組みづくりに繋がっています。現場でモデルを作り、中間支援の形で全国に私達の活動を広げ、政策提言の形で仕組み化する。これをワンストップで行っているのが私達です。公的な支援からこぼれ落ちてしまう子ども達を支援し続けることで、公的な支援を広げることが一部できたと自負しています。
しかし、子ども達を取り巻く環境はあまり良くなっていないのが実情です。
私は39歳で、同じ年生まれは120万人でした。息子は2歳で、同じ年生まれは68万人で半分に減っています。それにも関わらず虐待対応件数は年々増え続け、10年で2.5倍になっています。さらに子どもの自殺者数は増え続けて過去最多を更新し、この10年間で1.6倍になっています。先進国で子どもの死因の1位が自殺なのは日本と韓国だけです。韓国は熾烈な学歴競争が要因とされており、日本はそこまでではないのに自殺者が多いことは極めて遺憾です。
逆にフランスはこの10年間で子どもの自殺者数が半分に減っています。子ども・子育て支援に対する公的支出の対GDP比を見ると、日本は1.79%、フランス3.6%と倍です。公的支援をもっと広げていかなければいけないと感じています。
公的な支援だけでは救われない、当たり前の日常が奪われている子どもがこの国には大勢います。私達だけではその解決は難しく、皆様の力をぜひお借りしたいと思っています。まず、地域の課題を知る、課題・活動を広める、子ども達を支える、どんなことでも構いません。私の講演を通じてより多くの方に知っていただくために他クラブの方をご紹介いただけると幸いです。
当団体は、6.8億円の事業規模で活動しており、収入の約7割を寄付で賄っています。100社近くの企業、4800人以上の個人の方から支えていただいていますが、まだまだ足りていません。認定 NPO 法人で寄付金の税制控除の対象ですので、ぜひ、私達に力を貸していただければありがたいです。どうぞよろしくお願いします。
※2026年9月2日(水)の卓話をクラブ会報委員が纏めたものです。