卓話


音楽の力−音楽でもっと元気に

2023年11月29日(水)

オフィスレインボウ
音楽評論家・作詞家 湯川れい子氏


 私は来年、米寿を迎えます。音楽評論をジャズから始めて、ロック、ポップスへ、そして作詞もするようになり、63年になります。その間、病気や大変な経験をしましたが、最近もSNSなどで「どうしてそんなに元気なのですか」とよく聞かれます。音楽だと思います。つまり、それだけストレスを音楽で解消できるのです。今日はその音楽の使い方、効用を持ち帰っていただきたいと思います。

 私の著書に『音楽力』という本があります。105歳まで生きられた聖路加国際病院名誉院長・日野原重明先生と一緒に書いた対論集です。

 私が音楽療法、いわゆるミュージックセラピーに出会ったのは半世紀以上前です。1972年、アメリカのサンフランシスコにローリング・ストーンズを聴きに行った時、アメリカの人に「今日ミュージックセラピーのセッションがあるんだけど、興味ある?」と聞かれました。「それは行きたい」と、ゴールデンゲート・ブリッジを渡ったあたりにある場所に案内されました。小さな8畳ぐらいの白い囲いのある鍵がかかった部屋に入ると、セラピストの女性がピアノに座っていて、5、6歳の男の子が1人いて、その真ん中にポンと叩くと音が出る縦型のドラムが1個置いてありました。男の子はキャーと奇声を発して駆け回っていて、部屋から出たいのか時々扉にドーンとぶつかったりしていました。

 セラピストが優しく「この歌に合わせて、ドラムを叩いてごらんなさい」と言います。初めは気が向いた時だけドンと叩き走り回っていたのですが、ある音楽になった時にふっと耳を澄ますようになって、ドラムも時々叩くようになりました。「上手ね、上手ね、そうよ、そうなのよ」と言われて、だんだんとドラムを叩くことに夢中になっていき、やがて疲れ果てて椅子に座って静かになりました。

 多動症という子供を見たのはそれが初めてでした。それがどのような発達障害なのか私も全く理解していなかったのですが、音楽がこんなに効く、こんな働きを音楽がするのだということを実際に見た初めての体験でした。

 日本に帰ってきてミュージックセラピーの参考書や資料を探しに大きな本屋に行くと、1冊だけ音楽之友社から『音楽療法』という本が1969年に出ていました。

 その本には、南フランスの洞窟に残る壁画に、3人の兄弟が獣の皮を被り動物の骨と骨を鳴らしたり、動物の骨に皮で弓状のものを作って弾いたり、それで病人やけが人を治していたと思われる絵があること、それらは人類の最初、1万3000年から3万年くらい前に既にあったという記述がありました。

 音楽の歴史や発展を見ていくと、音楽がなかった人類はありません。私はそうした研究とも言えないような、いろいろな勉強や体験を重ねてきて、今、日本音楽療法学会のお手伝いをしています。これは日野原先生がずっと理事長をされていた、元は3つ位あった研究会が一つになったものです。

 音楽療法士は、日本はまだ国家資格化がされていません。保険の点数が頂けるようになることが日野原先生の望みでしたし、私も一生懸命にそのお手伝いをしていますが、国家資格化には至っていません。

 しかし、そうした中で、音楽が認知症やハンディキャップを持っている人たちや、運動ができない人たちの脳にも、心にも、体にも有効な力を及ぼすことが医学的にもわかってきています。

 そして、地方のあまり予算がない自治体のお手伝いを、音楽を使ってやっている人たちが増えてきています。私は日本音楽健康協会のお手伝いもしています。音楽を使って沢山の人を元気にしている活動をビデオ作品にしたものを全国から集めて、年に一度、「音健アワード」を授与しており、12月に授賞式があります。

 皆さんにも音楽で元気になることを実際に体験していただきたいと思います。

 まず、伸びをしましょう。それから少し隙間を見つけて、ご自分の体がどのぐらい柔軟か、床に手が届くかどうかやってみてください。体が柔らかいということは頭も柔軟だということです。

 1曲、音楽を聞いていただきましょう。肩の力を緩めて、背もたれにゆったりと背中をもたせるようにして、手は膝の上にポンと置いて、身体の力を抜いて、足は肩幅ぐらいに開いて、鼻からすっと息を吸って、口からなるべく長く細く息を吐くようにしてください。

 『日本海流』という曲をかけます。その音楽を身体の細胞の一つ一つから染み込んでくるような感じで受け止めながら、ご自分が今、身を置いて一番心地が良いという状況を想像してみてください。春の海を漂うプランクトンになってもいいし、群と一緒に泳ぐイルカでもいいし、秋の空をゆっくりと弧を描いて飛んでいるトンビでもいいし、あるいはまだ少年の時代、田舎のおばあちゃんのお家で横になって、そよそよと青い畑を通ってきた風を受けて寝転がっているあなたでもいいし、100万本のコスモスが咲いている丘でひっくり返って、青い空を見ていてもいい。ご自分がいて一番心地いい場所を一つ想像してみてください。

 そして、鼻ですっと息を吸って、口から細く長く無理のない範囲で、ゆったりとした気持ちで、心の情景を楽しみながら1曲聞いてみてください。

<曲が流れる>

 ゆっくりと目を開けてください。近くの方の顔を見ていただくと、頬の血色がとても良くなったことがわかると思います。

 音楽を聞きながら、ご自分がいて気持ちのいい場所を想像できた方は、きっと長生きできますよ。今のたった3分か4分の間でも「ちょっとこんなことやっていられないよな」と頭の中をお仕事が占領していた方は気をつけてください。病気の最大の原因はストレスだということは間違いないと言われています。そして、悲しみや喪失感です。

 私も実は膵臓がんだと言われたことがあります。切っても、膵頭にがんがあれば100%助からない、膵尾にあっても50%しか成功しない。「切るか切らないか、明日の朝、膵臓に内視鏡を入れてから執刀しなければいけないから決めてください」と言われたので、切らないことを選びました。

 奇跡というのはその時、奇跡の顔をしていないからわからないのですが、私は翌月から仕事でインドに行くことを選びました。行った途端に配給されたミネラルウォーターで赤痢になりました。1週間も40℃、41℃の熱が続いて、毎日お尻にペニシリンを打ってもらって帰ってきました。

 お世話になっていた病院に検査に行くと、膵臓がんが退縮していました。高熱が良かったのだそうです。がん細胞は熱に弱く、外から一生懸命熱を入れようとしてもそこまでの熱は入らないけれど、体内で40℃、41℃の熱が1週間も続いたことで、がん細胞が退縮したのだろうと言われました。そんなことがあります。

 結局は自分の人生とはそうした選択の連続なのでしょう。とにかくストレスを溜めないことです。たった3分か4分、ご自分の家で、好きな音楽をかけてもかけなくても結構です。秒針のある時計を見ながらすっと吸ってふうっと吐き出す呼吸を、最初は10秒、20秒、30秒ぐらいまでを身につけて、夜寝る前に行うことを癖にする。そして、その日のストレスは枕元に置いて寝る工夫をする。お酒や、お薬の力を借りないで眠るようにする。ご夫婦仲が悪い方は妻を怒らないようにする。ということは、あなたがにこやかでいなければいけないということですよね。

 全世界を歩いてみてわかったことがあります。呼吸法がいかに大切かは全世界で共通します。そして、もう一つ、自分で自分の生活と心と体にリズムを与えることです。世界中に共通しているたった一つのリズム楽器を皆さんはお持ちです。心臓です。心臓というリズム楽器に外から一定の心地よいリズムを与えると、その人の基本のリズム、基本の心臓が整うのです。

 ですから今の呼吸法などで、ご自分の体と心と生活に心地良いリズムを取り入れながら、ゆったりとストレスを自ら脱ぎ捨てる時間を作ってください。さきほどのたった1回の呼吸法で顔色が良くなったのですから、そのことを覚えて生活していただけるときっとお役に立つと思います。


    ※2023年11月29日(水)の卓話をクラブ会報委員が纏めたものです。