卓話


国土強靭化と公共投資について

2023年8月2日(水)

(一財)先端建設技術センター
理事長 五道仁実氏


 私は国土交通省において主に治水等の防災関係や公共工事積算、入札契約制度、技術開発などを担当し、最後に内閣官房で国土強靱化の担当をさせていただきました。

 我が国の防災・減災対策は、過去の大災害の教訓を踏まえて、防災から減災、そして国土強靱化へと深化してきました。

 昭和34年の伊勢湾台風を契機に災害対策基本法ができ、日本の災害対策をどのように行うかという枠組みができました。

 次に、平成7年の阪神淡路大震災という都市直下の地震によって、耐震化・密集市街地対策、自助・共助の大切さが注目され、すべての災害を抑える防災ではなく、災害をいかに減じるかという「減災」が議論されました。

 そして、平成23年の東日本大震災により、国の存亡にかかわるような大災害が起きたときにどうするのかについて議論がなされ、「強さ」と「しなやかさ」を持った安全・安心な国土・地域・経済社会の構築という「国土強靱化」の取り組みが始まりました。

 その後も、平成28年の熊本地震、令和元年の東日本台風、令和2年の球磨川が氾濫した7月豪雨、令和3年の熱海市の土石流災害等があり、今年も九州北部、山陰地方、秋田で大きな災害が起こっています。近年、線状降水帯等、短時間に集中して雨が降り、災害の激甚化、頻発化が叫ばれています。

 水害のみならず、今、懸念されているのが大規模地震で、首都直下、南海トラフ、それから日本海溝・千島海溝沿いで地震災害が起きたときに、どのような被害が出るのかについて内閣府において被害想定等の検討がなされています。

 事前防災とは災害発生前の対策をとることです。近年の災害を見ると、水害による被害額と復旧に要する費用よりも、事前に防災対策をしたほうが少ない先行投資で大きな整備効果をもたらすことが可能になっています。

 令和元年の東日本台風の際に阿武隈川で堤防が決壊し被害が発生しました。被災後、原状回復に要した費用と被害額の合計は約7,020億円で、事前に災害を防ぐ対策をした場合の費用約1,300億円に対して、5倍から6倍になっており、できるだけ早く対策を取る合理性があります。これは破堤した災害のため被害額も大きくなっていますが、毎年のようにこうした災害が起きると考えると、大水害が全国どの河川でいつ発生してもおかしくない状況です。国民の生命・財産を守るためには、今後も中長期的に必要・十分な予算を確保し、事前防災対策を加速する必要があります。

 大規模自然災害が起きると、当然、世の中の経済活動は落ち込んでいきます。それを復旧させるまでの時間が長ければ長いほど国の経済に対する影響が大きくなります。強靱は「強くしなやか」という意味で、国土強靱化とは、できるだけ事前に対策を取るとともに、被害が大きくならないように、経済活動が麻痺せずに迅速に元に戻るような様々な活動を行っていく、災害発生を止めることはできないにしても、できるだけ早く復旧させること、そして、「ビルドバックベター」災害以前よりもより経済活動が増すよう国土や社会を作り上げていくことです。

 国土強靭化のため、治水対策、耐震対策といった災害に強い国土づくりという国土政策とともに、民間部門の強靱化として、民間企業の防災投資の促進、強靱なサプライチェーンの構築、地域防災を支える建設関連産業や中小企業の活性化も踏まえた産業政策を進める総合的な対応を行うこととしています。

 いかなる大規模災害が発生しても、我が国の経済社会システムが機能不全に陥らないよう、平時からハード・ソフトの取組を中長期的視点に立って進めることが重要です。

 「強くしなやかな国民生活の実現を図るための防災・減災等に資する国土強靱化基本法」が、東日本大震災以降、議論をされ、平成25年に議員立法で成立しました。国土強靱化の推進の枠組みは、基本法によって国が国土強靭化の基本計画を作り、それに従って政策を進め、地方は地域計画を作って地域において進めていくことになっています。

 近年、通常の国の予算にプラスして、「防災・減災、国土強靱化のための3か年緊急対策」「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」が閣議決定され、追加予算を投入して国土強靱化を推進しています。

 国土強靭化関係の予算の推移を見ると、平成29年までは各省が持っている予算を国土強靭化にシフトさせて行ってきましたが、平成30年に西日本豪雨、台風21号、北海道胆振東部地震等による被害を踏まえ当時の政権において緊急点検をし、令和2年度までの3か年緊急対策を特別に予算措置しました。

 その後も、東日本台風等大きな水害が立て続けに起きたため、緊急3か年の後も強靱化政策をスピードアップして行おうと、5か年加速化対策を閣議決定しました。事業規模は3か年緊急対策が事業費ベースで7兆円、後継の5か年加速化対策が約15兆円で令和3年から7年まで対策を行うことになっています。

 公共事業予算に占める国土強靱化関係予算の推移で見ても、強靱化法ができて以降、強靭化にしっかりシフトし、しっかりと進める体制になっています。

 5年間で15兆円追加投資をする5か年加速化対策が現在3年目を迎え、内閣官房が出した数字によれば9.9兆円の投資が終わっています。

 5か年加速化対策の終了後についても、国土強靭化を継続して強力に推進してほしいとの要望が各自治体等から強くあり、政府与党の自民党では国土強靱化本部で、公明党でも継続について議論がなされました。

 令和4年11月に与党でプロジェクトチームが作られ、5か年加速化対策の着実な推進とその後を見据えた対策について、国土強靱化基本法の改正も視野に議論が進められました。

 過去、国土整備については、例えば治水5か年計画や道路5か年計画など、5年間にどれぐらいの事業をどこでどう実施するのかを長期的に考える計画がありましたが、平成14年頃にそうした計画は全てなくなりました。それぞれの地域においてどのような町作りをしていくのか、どのような県土整備をしていくのか議論をするときに長期的なことを考えられる計画がなく、また、企業側からすると、いつまでにインターチェンジや道路ができるのか、水害対策が終わるのかなど、なかなか目処が立たない部分がありました。また、それを担う建設業界からすれば、いつまでどのような規模の事業があるのかなどの長期的な見通しがはっきりしないことから、設備や人材の投資をしていいのか等、なかなかわかりづらい部分もありました。

 今年6月に議員立法の国土強靱化基本法の改正が成立して、国土強靱化実施中期計画が立てられることになり、ある程度の今後の先行きを考えられるようになりました。少なくとも、中期計画を立てて、地域、企業から含めて国の強靭化対策をどのように進めていくのか議論する場ができたということです。

 今年度の経済財政諮問会議の「令和6年度予算の全体像」という本の中で、当面のマクロ経済運営で重視すべきポイントの3つの観点として、〇続的な賃上げと物価対策、国内投資の拡大と供給力強化、9馘擽靭化等の安全・安心、が示されています。

 は、「国土強靭化等の安全・安心の観点から、大雨等の災害に万全を期すとともに、生産性を高める社会資本整備等の取組を進める。」としています。

 今年度が国土強靱化の基本計画を5年ごとに見直すタイミングであり、7月28日に、新しい基本計画が閣議決定なされました。その計画には、国土強靱化を推進する上での基本方針が示されており、従来からある「国民の生命と財産を守る防災インフラの整備・管理」「経済発展の基礎となる交通・通信・エネルギーなどライフラインの強靭化」「災害時における事業継続性確保をはじめとした官民連携強化」の他に、新たに加えられた「デジタル等新技術活用による国土強靭化の施策の高度化」と「地域における防災力の一層の強化」についてしっかり取り組みを進めていこうとなっています。

 大規模な災害が起きた際に、いかに日本の国力を落とさずに経済を復興できるか。今後、国、地域の国土強靭化の取り組みと、各企業における防災対策や業務継続化対策をしっかり行っていくことが車の両輪となり、強靭な国土となることを期待しています。


    ※2023年8月2日(水)の卓話をクラブ会報委員が纏めたものです。