卓話


日本の地域経済の課題と可能性−ドイツとEUからの示唆

2023年12月6日(水)

ドイツ日本研究所
所長 フランツ・ヴァツデンベルガー氏


 日本の人口はドイツの約1.5倍です。国土面積はほとんど同じですが、地理的条件は大分違い、日本は島国で、ドイツはヨーロッパの真ん中のため国境が多くあります。土地利用を見ると、ドイツは農地が約5割で、日本は12%しかありません。そして森林は、日本が圧倒的に多く約3分の2で、ドイツは30%です。

 ドイツはEU加盟国で、これは経済においてもいろいろな意味を持っています。

 日本の都道府県数は47で、連邦制であるドイツの州の数は16ですから、ドイツの3倍になります。そして、日本には1741の市区町村があるのに対し、ドイツの一番ローカルな自治体数は401で、日本の自治体数が非常に多いことがわかります。

 そして、日本が直面している大きな課題は一極集中です。東京、埼玉、千葉、神奈川の1都3県は国土の4%しか占めていませんが、GDPの3分の1を生み出し、人口も30%近くを占めています。

 ドイツには関東地方のようなエリアはなく、首都ベルリンの面積は国土の8%で人口も8%と集中していません。最も人口密度の高いノルトライン=ヴェストファーレン州も面積は国土の9%で人口は22%と日本ほどではありません。

 ドイツの地域分散型社会の背景には地方の独立性の長い歴史もありますが、今の知識経済に教育と研究が非常に大きな役割を果たしています。

 ドイツで大学までの教育は州の管轄で、エリート大学はあまりなく、就職において大きな意味を持っていません。有名な大学は地方の小さな都市に昔からあり、大学を卒業しなくてもいいキャリアを築ける環境、職業教育の制度ができおり、特に地方にある中小企業にとってその職業教育制度が採用チャネルになります。

 基礎応用研究機関が各地方にあり、産学連携もうまく行われています。主要企業の本社もベルリンには少なく、シーメンスはミュンヘン、ダイムラーはシュトゥットガルト、SAPという一番大きなソフト会社はハイデルベルグ近くのヴァルドルフというあまり知られていない町にあります。

 大学や研究機関が地方にあると、そこに人材が出てきますし、知識基盤もでき、企業にとって魅力的な地域になるわけです。企業はそこに行って職場を提供し、職場が提供されると人はそこに残り、または移住することになります。知識社会における好循環ができています。ドイツの先端産学連携クラスターも各地にあり、地域経済を支えています。

 人口動態で日本とドイツを比較すると、日本は1960年代から人口が増えて2010年から減少していますが、ドイツは安定しています。両国とも高齢化が進み、進み方は日本の方が早いです。

 高齢化や人口動態の一つの大きな原因は出生率ですが、出生率にはあまり違いはなく、ドイツの方が日本より低かったのです。ドイツの人口が安定している理由は移民です。

 ドイツの人口は1970年代半ばから減少する見通しでしたが、移民によって人口が安定してきました。人口に占める国際移民の割合が2016年にピークになった理由は難民の受け入れです。ドイツは数十年前から移民が増え続け、今、移民背景を持っている人口の割合は3割になります。移民背景とは、自身が外国で生まれた、両親の1人が外国で生まれたという定義です。そのため、ドイツは最近、アメリカよりも圧倒的に移民が多いのです。

 2010年から2020年の10年間の日本の人口減少率は全国平均で1.5%でした。自治体で見ると、地方はもっと激しく、5割以上の自治体で10%以上の人口減少が発生し、10%以上の自治体が20%以上の人口減少を経験しました。

 いろいろな統計から相関関係を計算すると、小規模な自治体ほど人口減少が激しく、高齢化も進んでいます。所得のレベルも低く、財政状況も弱いことがわかります。劇的なダイナミックさを示しています。そのため、日本の地方はどうなるのかという質問が出てきます。

 大きな課題はやはり地域経済です。地方経済のポテンシャルについて、ドイツやヨーロッパの事例を見ていきます。

 一つは、エネルギー分野です。再生可能エネルギーは地方の資源になります。そして、それをうまく利用するためには、地元の人の売り買いと努力が必要になります。地域コミュニティによるエンゲージメントは、ドイツにおいては自治体が運営する公社です。エネルギー分野だけではなく、廃棄物処理など様々な分野の公社があり、昔、EUのエネルギー市場が自由化された時はほとんどの公社が民営化されました。

 最近、再生可能エネルギーを積極的に導入しようという市民の動きがあり、民営化された企業がまた公社に変更されました。また、市民が一緒になって再生可能エネルギーの発電所を共同で運営する組織、エネルギー協同組合もあります。もちろん、こうした再生可能エネルギーの可能性を広げるためには、規制の枠組みが重要で、既存のエネルギー業者との公正な競争を実現することが必要です。

 特に、エネルギー生産者とグリッド(送配電網)のオーナーとの利益相反を回避することです。ドイツでは再生可能エネルギーはグリッドと優先的に接続させなければならない決まりがあります。日本にはそれはないため、グリッド管理会社は「これ以上は再生可能エネルギーを入れない」と言えるのです。日本では、グリッドと接続できる保証はないため、再生可能エネルギーに投資するリスクが生じます。再生可能エネルギーに投資するリスクが生じます。特にグリッドオーナーとエネルギーの既存生産者の利益関係は密接なため、再生可能エネルギーの公正な競争にならない恐れはあります。

 もう一つは、再生可能エネルギーのポテンシャルについてメディアで伝えられる情報です。「日本では再生可能エネルギーはもう限界。3割以上は難しい。グリッドは安定しない」という話を聞きますが、ヨーロッパを見ると、既に5割以上を再生可能エネルギーに依存している国々があります。

 ですから、再生可能エネルギーをもっと利用することは可能です。ドイツは脱原発を決めた時、日本では「ドイツは脱原発しても、ドイツの周辺、特にフランスなどにある原発から電力は輸入できるはず。だから別にドイツは原発を止めても問題ない」と言われました。しかし、ドイツは電力の純輸出国です。ヨーロッパから電力を輸入していますが、それを超える量を輸出しているのです。そのため脱原発実現後、外国の電力に依存することにはなりませんでした。

 そして2022年、フランスは半分近くの原子力発電所が停止したため、ドイツの電力に依存しました。そうしたことは日本ではあまり伝わっていません。

 日本にもドイツにも自給率100%を超える再生可能エネルギーを生産している自治体がたくさんあります。日本でそうした自治体は全市町村の1割で、ほとんどは田舎の小さな村です。ドイツにもそうした「エネルギー村」と言われる自治体が200以上存在します。地方において再生可能エネルギーは一つの資源であることがわかります。

 もう一つの事例は、農業です。オランダの面積は九州と同じぐらいですが、オランダは農産物や食品関連の輸出でアメリカに次いで世界第2位です。効率性の高い農業を発展させてきたからです。研究開発によって生産性や食品の安全性を向上できました。

 水耕栽培のように大規模にイノベーションを活用することで、廃棄物を減らし、水とお金の両方を節約できます。トマトを生産する際の水の使用量のデータを見ると、オランダは世界平均の20分の1です。その開発に大きな役割を果たしているのは農業技術の世界トップの研究大学・ワーゲニンゲン大学で、世界中の企業が共同研究プロジェクトを持っています。

 農業で地産地消を上手く実現するためには、地域循環型経済の可能性を考える必要があり、それを引き出すと革新的な相乗効果が実現できます。

 ハーグにある工場跡の農場では、野菜と魚を自給自足で生産しています。魚の排泄物は野菜の肥料となり、野菜は魚のために水を濾過し、魚と野菜は近くのレストランで料理に使われています。

 トマトの廃棄物から出る天然ガスを照明用の電気に変換して利用するトマト生産もあります。発電機から出る副産物である熱とCO2を回収して、温室を暖め、植物の成長を促進するために使用します。

 最後の事例になります。日本の国土の3分の2は森林です。経済学者としては絶対に比較優位を持っているはずだと考えますが、それがありません。理由としては、地理的条件が難しいこと、1970年代、80年代に木材を自由に外国から輸入して地元の産業が駄目になった歴史や、所有権が不明確といった問題があると思います。

 ドイツは、森林が多様な資源であると認識しています。木材だけではなく、バイオマス、CO2の吸収、健康、観光といった財産になります。そして、森林官の存在です。ドイツでは医師と並んで人気のあるステータスの高い職業です。大学教育を経て、コミュニティにおいて大きな役割を果たしています。

 今後の日本の選択肢としては、自治体の数を減らし独立性を高める、 市民参加の可能性やその意欲を高める、知識社会における好循環を生かすために優秀な大学や研究機関を地方に設置する、産学連携で地域クラスターを促進する、地方の中小企業の採用チャンスを増やすために一括採用を廃止する、さらに、移民政策としては外国人に魅力がある環境を作ること、地方経済のポテンシャルのためにGX、DX、循環型経済を生かすことが挙げられます。特に、移民政策は地方が生き残るための重要な選択肢になると思います。


    ※2023年12月6日(水)の卓話をクラブ会報委員が纏めたものです。