卓話


青少年奉仕月間例会
すべての人がより自由に、より対等に生きられる世界をめざして

2024年5月8日(水)

(公財)国際文化フォーラム
常務理事 水口景子氏


 国際文化フォーラムは、英文名称をThe Japan Forumといい、略称TJFと覚えていただければ幸いです。1987年6月22日に、王子製紙株式会社、株式会社講談社、大日本印刷株式会社、凸版印刷株式会社、日本製紙株式会社、株式会社三菱銀行(現株式会社三菱UFJ銀行)の6社の出捐により誕生しました。

 1980年代は日本は顔が見えないと言われた時代で、TJFに課されたのは、もっと日本のことを海外に発信することでした。当初は日本語や日本文化を海外の方たちに紹介する事業を中心にしていました。

 2011 年に公益財団法人に移行して以来、国内外の児童及び青少年を対象とした外国語教育及び多様な文化についての理解を促進するとともに、教育及び文化の交流を推進する事業を推進してきました。

 最近、ダイバーシティという言葉を耳にされるのではないでしょうか。現実社会では、言語や文化だけではなく性別、年齢、国籍、人種、民族、宗教、障害、性的指向、学歴、社会階層など、様々な属性が切り離されて存在しているわけではなく、1人の人や1つのコミュニティにおいて、複数の属性が相互に関わりあい、複雑に交差しています。社会の現実を多層的に捉えていくためには、多様性の急速な進展とともにこうした「交差性」と「多様性の中の多様性」を視野に入れていくことが不可欠になっています。

 TJFはこのような時代認識の下、2023年に、「多様な背景を持ったすべての人がより自由に、より対等に生きられる世界を創り、未来につないでいく」ことを新たなビジョンに掲げました。さらに、ビジョンの実現に向け、「対話から共通了解へ」、「協働から共創へ」、「対等な関係性の構築」の3つをミッションに定め、このビジョンとミッションを念頭に置きながら、様々な事業を展開しています。

 事業の中から2つ、皆様にご紹介します。1つは地球講座です。
 この講座では、デジタル地球儀「Sphere(スフィア)」を使って、地球のライブ映像や過去から未来の地球をシミュレーションしたものを見ながら、地球について考えていきます。地球の温度が温暖化に伴ってどのように上がっていくのかといったこともスフィアを見ながら考えることができます。地球講座は国内外の中高校生を対象に、今はオンラインで実施しています。

 地球講座で目指すことは3つあります。
 1つは、今世界が抱えている課題は、一つ一つの国、あるいは二つの国で解決できるものではないため、私達の視点を国際から地球にアップデートすることを掲げています。 もう1つが、自他の視座を転換して考えることができるようになり、慮りのある社会になることです。

 3つ目は、相互理解という観点では関係構築が困難な相手とも互いを尊重できるようになることです。新しい関係作りを体験してもらうために、この地球講座を実施しています。

 2023年には、夏至の頃に、The Live「夜のリレー」を、冬至の頃には、The Core「同世代と語る地球のコアな話」を実施しました。

 企画にあたって、次の4つのステップを考えました。
 1.人の目線を往還する。
 専門家の話を聞くことにより、人の目線で考えた「台風は災害である」という考えが、地球の目線では「台風によって強い風が吹き、海水を攪拌し、海の表面の水温を下げるとともに、深いところにある栄養分が表面にあがってきてプランクトンが増え、生物にとって良い環境を生み出す」という豊かさを実現する側面もあることに気づきます。

 2.この惑星にともに在ることを体感する。
 時差のある各地から学生レポーターが日の入りの様子を中継しZoomで共有することで、自分の周りの人だけでなく、多くの人がこの地球に共にいることを実感します。

 3.違うことを前提に相手を尊重する。
 グループワークでは、融通や我慢はせず、一人ひとりが違うことを前提に尊重することを経験します。

 4.共話して文脈を共創する。
 グループでやりとりしながら、未来の地球を創っていきます。

 講座の参加者からは、「地球を色々な視点で見ることが出来た。今まではどうしても地球中心に考えようとしても人間の目線が入っているなと改めて感じた。もっとたくさんの地球について知りたいなと感じた」、「新しい地球を見るのは楽しかったし、世界中の人々と話すのは楽しかった。様々な視点で環境保全の概念を考えることができることに気づき、それに関連するトピックに興味を持つようになった」などのメッセージが寄せられ、講座の目標は一定程度達成されていることがわかりました。

 海外の日本語学習者に参加してもらっていますが、やはり対話となると難しいことがあります。同時通訳にそれをしてもらうのではなく、その言語がわかるちょっと先輩の方たちに入っていただいて、この講座を成立させています。

 もう1つご紹介するのが、多言語・多文化交流「パフォーマンス合宿」(PCAMP)です。PCAMPは、「多文 × 芸術」をコンセプトに、日本で暮らしている多言語・多文化につながりや関心をもつ中高生等が、ありのままの自分を表現したり多様な人と関わったりする喜びを体感し、自信を深めていけるように、演劇やダンスを取り入れた様々な表現活動を通じて交流する3泊4日の合宿型のプログラムです。

 立ち上げ当初の2回は東京で実施しましたが、2022年の広島県安芸高田市での実施を皮切りに、地域版に移行し、2023年には広島県呉市、今年は広島県福山市での開催に加え、富山市でもPCAMPを実施すべく今準備を進めています。

 なお、2023年の呉市でのPCAMP実施には、呉ロータリークラブの協賛をいただきました。

 なぜ、「多文化」×「芸術」にしたのか。なぜ地域に注目したのか。

 芸術表現は人間の共通言語であり、言語を超えるものだと考えています。芸術表現は「違い」を「豊かさ」と捉え、「違い」への劣等感、違和感、嫌悪感といったマイナス感情を軽減し、創造性に変えていけるもので、それは異なる文化が混ざりあって新たな価値が生み出されることにも通じます。TJFは芸術表現を通じて多文化共生のマインドを育むことができると信じたからです。

 地域に注目したのは、立ち上げから2年は東京に集まってもらいましたが、参加者の成長には繋がるものの、一過性のイベントになってしまう懸念がありました。その後、地方都市にこそ多文化共生のニーズがあり、この事業に参加した参加者や関わってくれた団体の方々が協力・協働・協創することで、地域を豊かにする可能性があると考えたからです。

 3泊4日の合宿ではどんなことをするのでしょうか。
 まず、参加者は一緒に生活をしながら体を動かすゲーム、簡単なダンスに取り組みます。

 さらに、自分のことを自ら言語化します。ここが一番肝になります。好きだったもの・こと、勇気をもらった言葉、尊敬する人などを通して、これまでを振り返り、自分を形作っているものを言語化し、自分のStoryを作ります。

 そして、みんなのMy Storyをグループでシェアし、その後、グループでシナリオを創作して演じます。そこでサポーターとして活躍するのが、ファシリテーターになっていただいている演出家や舞台俳優です。ダンス表現などを組み合わせてパフォーマンス作品を創り、最終日にはお客様を招いて発表会を行います。

 2022年に実施した発表会には、地域の参加者の家族、演劇教育に携わっている方、テレビや新聞で発表会のことを知った方など80名を超える方が参加してくださいました。

 2022年PCAMPの発表会の締めくくりは、参加者が「2022年の思い」を伝えることでした。最初は、今抱えている不安が並び、全員が舞台にうずくまりますが、その後、全員が前を向き、希望を託した「2022年への思い」を一人ひとり口にしました。

 この事業の成果は、参加者が語ってくれた声から見えてきます。
 「積極性、自信につながった」、「人と深く関わるのが好きではなかったが、PCAMPに参加してみて、将来教師になって、子どもたちの記憶に残るような深い関わりを持ちたいと思った」、「多文化交流には興味がなく表現することに引かれて参加したが、海外にルーツを持ついろんな人と接して、多文化交流もいいなと思った」、「家族も知らないことを舞台で堂々と表現して、それを家族に見てもらえた。発表会を見に来た家族から『そんなことができるんだ』と褒められた」、「ふだん気づかない、口にしない家族への感謝を表現できた」。そんな声が参加者から寄せられました。

 PCAMP 2022には28名の参加者がありました。参加者のバックグラウンドは中国、日本、ネパール、バングラデシュ、フィリピン、ブラジルなど様々でした。

 発表会を見学した方々からは、「率直な高校生の意見や思いが伝わってきた」、「多文化共生、今まさに求められていることを地域で子供たちに体験させる、素敵なプログラムだと思った」という感想をいただきました。

 地域の方たちと共に作っていくPCAMPの可能性を感じたメッセージでした。

 今年は広島県福山市と富山市で夏にPCAMPを開催すべく準備を進めています。

 TJFは今後も、ビジョン達成に向けてこれからの社会の担い手である若い世代を対象とした様々なプログラムを実施していきます。

 TJFの事業は皆様からのご寄付で成り立っています。事業の持続的な発展のために、皆様からのご寄付をお願いできれば大変ありがたく存じます。継続的な支援のための法人賛助会員の制度もございますので、よろしくお願いします。


   ※2024年5月8日(水)の卓話をクラブ会報委員が纏めたものです。